地域行事などに参加すると、地元住民と交流する沢田さんの姿をよく見かけます。若い力で地域を盛り上げる活動は、注目の的です。今回は、「過去に興味ないので、あまり自分のこと喋らないですね」と話す沢田さんに、お話をお聞きしました。
小学生の頃から起業を考える
青森県東北町に生まれた沢田さん。起業を考え始めたのは小学生の頃からだったと言います。
「起業することは、小学校の頃から考えていましたね。今思えば、実家が農家だったから、もともと個人事業主とか経営とかに抵抗がなかったのかもしれません。俺の知っている農家は、雨降ったら仕事を休むし、誰に何を言われるわけでもないし、自分たちでやるか!って言って働いて金稼いで生活をしていく。今思えば、そこら辺のルーツというか、両親の影響は強かったのかなと思います。
自分の中で勤め人じゃなきゃ危ないとかそういう固定概念はなくて。起業しようと思っていはいたんですけど、最初は流されて勤め人として働き始めました。約10年間くらい勤め人でしたね」
勤め人を経験する
高校を卒業してから、青森県弘前市に本社がある車部品の卸売業会社に、営業として就職します。適性があったのかメキメキ頭角を現し、一目置かれる存在となりました。
「営業が向いていたんでしょうね。2年間野辺地支店というところで営業をやっていて、自慢ではないですけど、そこそこ成績が良くて。社員優秀賞みたいなのをもらい、副賞で海外旅行に行ったりとかもしました。3年目に盛岡へ転勤をして頑張ってくれないかと声をかけられて、そのまま盛岡に転勤してきたんですよ」
順調に聞こえますが、盛岡支店での営業はきつかったそうです。
「その会社自体が盛岡での風当たりが強くて。あまり上手くいかないんじゃないかと言われてたんですけど、当時いた仲間たちと一緒に盛り上げて。盛岡支店ができてから過去最高の売上を達成したりとかもしました。辛いことも結構あったんですけど、あんまり覚えていません。楽しいことは多かったので」
誘われて整備工場へ転職
2年間、盛岡支店で働き続ける中で、沢田さんの仕事ぶりに目を留めた整備工場の社長と工場長から転職の誘いを受けました。「卸売業だったので、営業先の整備工場とかオートバックスさんとか、ディーラーさんとかに部品を売るということが仕事だったんですよ。それで、その整備工場から『来ない?』って言われて。僕の仕事ぶりを見ていた工場長が『仕事できるんで入れておいたほうがいいですよ』と社長に押してくれたみたいです」
“普通の整備工場ではない”という点が、沢田さんの心を掴みます。
「その整備工場は、8割、9割輸入車を取り扱う整備工場でした。メチャメチャ面白くて、普通の整備工場じゃない感じだったのと、技術身につけるのは面白そうだなと思って引き抜きに近い形で転職したんです」
起業の想いをずっと抱いていた沢田さんは、転職した先でも精力的に働きました。実務経験を積みながら、国家資格である二級自動車整備士取得の為の勉強も行います。また、本業と同時に副業にも挑戦していました。
「副業も、結構やっていて。すごく稼げるわけではないですけど、死なない程度にはある程度稼げるようになっていました。それもあって、別に事業に固執しなくても好きなことができるよな、と。もし金が足りなくなったら、副業のスキルを活かして小銭稼ぎはできる。セーフティネットを作って、やりたいことがあったら飛びつける状態にしておきたいと考えていました」
起業を考えた時に、整備士として独立することは考えなかったのかと伺うと「その選択肢はなかった」と断言します。
「整備工場は、設備投資が結構かかります。競合も多いし、安売りせざるを得ないところがある。だから、自分のやりたいことができないかなと思って、はなから諦めてやらないという選択しかなかったですね。
でも、違う事業とかで儲かって、遊び感覚というか趣味感覚で整備工場をやるならいいかなという気持ちは今でも持っていますね。楽しいので。整備とか車のこと自体は」
起業を模索する中で参加した八幡平のスパルタキャンプ
出典:https://kokucheese.com/event/index/476388/起業への熱い想いがある沢田さんですが、具体的な形が見つからず模索を続けていました。そんな中で、八幡平市で行われているスパルタキャンプという取り組みを知ります。
「やりたいことがないと言ったらあれですけど。継続性があって、収入面でもとりあえず入ってくるやつで・・・・・・など、ビジネス的に考えちゃうと全然思いつかなくて。だから、何をやろうというのは行き当たりばったりでという感じでした。スパルタキャンプには起業を目指して参加しましたね」
スパルタキャンプは、八幡平市が行っているユニークな取り組みの一つ。起業や転職を目出す人を応援する「起業志民PROJECT」の一環です。受講料無料で本格的なプログラミングの知識が身につきます。1ヶ月間の土日に開催され、この期間八幡平市に滞在することも可能、宿泊費も無料です。
2018年3月、沢田さんはスパルタキャンプ in 八幡平市【Ruby on Rails編】に参加します。
「その時は勤め人だったので、働きながら土曜日に有休を取って、土日受けて。そのまま仕事をしてというのを1ヶ月続けました。当時は副業もしていたので、正直なかなかハードでしたね」
スパルタキャンプは短期集中型のプログラミング合宿。受講期間中は課題も出る為、土日の授業以外に、平日に課題をこなす必要があります。1ヶ月間、仕事を休んで集中的に受講する人が多い中、沢田さんは休みを全てスパルタキャンプに当て仕事と両立しながら参加しました。
「結構きつかったですね。睡眠時間は3、4時間とか。でも平日は他のキャンプ生たち、あそこ(宿泊施設)でプログラミング学習をしているので、負けたくなかったです。平日も宿泊施設に通える時は通ったりもして、結構そこらへんは頑張ったつもりではいますね」
“誰にも負けたくない”という揺るぎない想いからスパルタキャンプをやり通した沢田さん。整備士の仕事を辞めて独立したいという気持ちが高まりましたが、何で起業するかという答えはまだ見つかりませんでした。
シェアハウスというアイディアが形になる
YourBase正面玄関前スパルタキャンプから半年過ぎた2018年11月後半。沢田さんはシェアハウスというアイディアに思い至ります。
「その頃、八幡平にはスパルタキャンプがきっかけとなって移住した若者がちょこっと増えていました。僕も住む家が変わるタイミングだったので、シェアハウスをやればみんなも住めるし、自分もそこへ住んじゃえば1人分の家賃が浮いて、光熱費は折半して生活ができるし、Win-Winだなと。
スパルタキャンプ界隈の人は、普通の人たちより話が合って、一緒に暮らしたら面白そうだなと思ったことも影響したと思います」
シャアハウスの構想を思いついた沢田さんの行動は早かったです。12月の頭には大家さんの家に直接訪問し、自分の思いを語ります。わずか半月程で、八幡平市にシェアハウスをオープンするに至りました。
「大家さんに話に言ったら、ちょうど物件あるからみたいな話になって、キタ―!みたいな感じでしたね。めちゃめちゃ早いとたくさんの人から言われます。これだけ早かったのは何か天命的なものがあったんじゃない?みたいなことを言う人もいますね」
不安はなかったのかと問うと「ないです」と笑って答えました。
「スピード重視というか、自分のやりたいこと・実現させたいことをやりたいと思っていたので。特に不安なこととか、何も考えなかったですね」
20代を中心に入居者も決まり、シェアハウス「YourBase」がスタートしました。
国家資格取得!
合格証書を手にする沢田さん
「整備士にせっかくなったので、1つの実績で資格を取っておきたいなと思っていました。何もなく『ただ5年勤めていました』と『二級自動車整備士を取って辞めました』とでは全然違うので。実績を1つは持っておかないと、意味ないなって。そこに5年も時間をかけているので、と思ってはいましたね。
有給消化期間も合わせて2018年の11月から2019年の3月ぐらいまでは、整備士の資格勉強と講習の為に八幡平から流通センターへ通っていました」
勉強のかいもあり、無事二級自動車整備士に合格を果たします。沢田さんが行っていたのは勉強だけではありません。人との交流の輪も、格段に広がっていました。
人との関わりが増える
「仕事を辞めて、特に独立してから半端ない数の人に会っています。フリーランスや経営者とか、結構会う機会が多くて。話をする機会はサラリーマンなんかより断然多いですね。最初の頃は意図的に一生懸命会おうとしていたんですけど、最近は無意識です。今はそれが普通ですし、人が人を呼ぶみたいな感じで、意識をしなくても会えるようになってきました。あとは地域の方たちと交流を持ちたいので、いろいろ誘われたことには結構参加したりしています」
インタビューをした時点では、まだ移住してから1年も経っていませんでした。しかし沢田さんの姿を地域のイベントなどでよく見かけます。地元と積極的に交流したい気持ちを行動で表す沢田さんには、様々な人から声がかけられるようになっていました。
「ありがたいことに声をかけていただけるので、そうなった時に顔を出せるような状況を作っておかないと、意味がないと思っています。だから、声かけられたら『行きます』と行くようにはしていますね。今日も誘われています。無理やり行っているのではなく、好きで行っているので笑
意識的にやろうというよりは地元の人たちとコミュニケーションを取ったり、仲良くしたりしたいという気持ちが本音です。どうせやるなら、楽しくやりたいですからね」
人との繋がりを重視する姿勢は昔からなのでしょうかと伺うと「それは違う」と即答しました。
「昔は全然違いましたよ。サラリーマンの時は、毎日がルーティンで終わっていたし、いろいろな人たちと関わり合いもなかったし。変わったきっかけは、スパルタキャンプ。後、サラリーマンを辞めたことも大きいですね。
サラリーマンはどうしても時間に縛られるじゃないですか。でもフリーランスや起業家は様々な時間帯にいろいろな方たちと会えます。スパルタキャンプに参加した頃から、Twitterとかも始めて。交流の幅はものすごく広がりました」
SNSをツールとして活かす
開設から1年も経たないうちに、Twitterからの出会いの場は広がったと言います。
「リプで仲良くなった人とか、DMが来るようにもなりました。シェアハウスはある意味では店舗を持ったようなものなので、こちらも遊びに来てくださいよって言いやすいんです。
会話の流れから『会ってみたい』と言われたり、『交通費は出すから都内に来てくれ』とかいう社長さんがいたり。『盛岡いるから、来れない?』と急にリプをもらうこともあります笑 こっちも『いいっす、行きます』みたいに直接会ったりして。Twitterの存在はデカいです」
沢田さんはTwitterの他にも、InstagramやYouTubeなどのSNSツールを積極的に活用しています。しかし、副業として運用しているわけではありません。
「別にYouTubeで儲けようなんて1ミリも思っていないです。そもそも儲かるハードルが高すぎる。インスタもYouTubeもSNS環境は八幡平を宣伝するためと、八幡平市の人たちに知ってほしいからやっています。
YouTubeなんてもろ、八幡平の人に俺を知ってもらいたいという目的でやっているので。『お金を稼ごう』とか『とりあえずチャンネル登録者をいっぱい増やして、有名になりたい』とか、そういうことは考えてないです。実は『いくら稼げるの?』とか『儲かっているの?』とか『そんなのでいいのかよ』ってよく言われるんですけど。でも、僕には目的があるから。SNSはその為のツールですね」
当たり前のことを当たり前に行う
SNSを通じての出会いは、日々の姿勢にも影響を与えていると話します。「それこそTwitter経由で出会った経営者の人から、交通費とかその日の日当みたいなものとか全部出すから、ちょっと来てくれないかみたいな感じで東京にお呼ばれをして。東京とか札幌とかに行って、仕事のお手伝いみたいなのをしました。
その時のその経営者の方の姿勢を学んで。お礼を言うとか、それこそ挨拶とかきちんとやるとか。本当に基本的なことは簡単そうに見えるけど、1番大切だなと思って。その人もなかなか儲かっている社長さんで、なるほどなみたいな。いいところは真似しようみたいな感じで。礼儀に関しては社会人をやっていたから身についたというか、営業をやっていたとかもあるかもですが、それ以外でも結構響くものがありましたね」
当たり前のことを当たり前にできる人はなかなかいない、だからこそ意識して行動していると言う沢田さん。やみくもに人と会っているわけではなく、出会いを通じて学び、縁を大切にしている姿勢が伝わってきました。
楽しくやることしか考えていない
好んで着ている、地元企業Geocolor八幡平地熱蒸気染色の地域限定ドラゴンアイTシャツ活発に活動する中で落ち込むことはないのか質問すると「たまに落ち込むことはちょっとはありますよ。でも立ち直りは早いですね。1日とかで終わっちゃうから」と、言い切ります。これからやりたいことに話題が上ると、沢田さんの表情が嬉しげになり、饒舌になりました。
「僕は本当に楽しくやることしか考えていないので。わくわくすること、楽しいこと、というか、そればかりをやりたいみたいな感じで動いているので。だから、ある程度お金がついてこなかったとしても、そこは別にいいかなと思っています。
これからやりたいことは、それこそ飲食ですよね。堀江貴文さんが『北海道独立宣言』という番組の企画で蝦夷マルシェというのを始めたんですよ。まさにそれをまんまやりたいなと思って、今、動いています。楽しい場所を作りたいという気持ちで」
蝦夷マルシェは、ホリエモンの愛称で有名な実業家堀江貴文さんが自身の冠番組内で始めた企画の一つ。料理のプロではない男女6人が北海道広大樹町に、北海道の魅力を世界に伝える新しいエンタメ満載のレストラン&バー「蝦夷マルシェ」をオープンさせる為に奮闘するところから始まり、運営していく様子が放映されています。
「蝦夷マルシェでは、簡単に言うと料理は取り寄せをして、オペレーションを少なくかつ味はおいしい飲食を提供しています。
料理で僕の作れるものなんて、別にたかが知れていますし、東京の高級料理店には勝てない。その”場”を作る関係で料理人になりたいと思って一時期はアルバイトもしていましたが、蝦夷マルシェを見た時に料理を作る必要ないなと思って。蝦夷マルシェを参考にした新しい形で飲食をやりたいと思っています」
八幡平には死なないコミュニティがある
最後にこれから移住を考えている人に向けたメッセージを伺うと、八幡平市への移住についてシェアハウスという場についての考えを含めて話してくれました。
「移住してくるのであれば、シェアハウスも作ったし、生活的には安くではないですけど、死なないコミュニティがもうあります。それこそシェアハウスに入っちゃえば、シェアハウスのメンバーがいるので、メンバー経由で地元住民と交流を持てる。メンバーの紹介という形で。
移住ですと地域住民との交流ができるかどうかがネックになることが多いと思います。シェアハウスの場合、まず人の不安は限りなく0に近いぐらいコミュニケーションを取れる状態です。
僕自身、もっと場所づくりをどんどんしていこうと思っています。シェアハウス以外の、それこそ飲食もそうですけど、やる理由として、死なないところを作りたいという想いも大きいです。
住む場所もあって、飯を食うところもあって、働けるところもあると言ったら、とりあえずのセーフティネットが整っている。障壁をどんどん解決していって、どんどんやっていきたいという気持ちが僕にはあります。だから、移住してくる人の気持ち次第ですね。例えば来てみようかなと言って、本当に来るというアクションを起こせるかどうか。
来たら絶対に楽しませる自信はあります。でも、あまり他人に寄っちゃうベースだとよくないと思うんですよ。自分が『楽しそうだから行こう』と思ったなら、それは自分で楽しまないといけない。他人にちょっと寄せちゃうとダメな気がするんですよ。要は俺が来いって言ったから来たんだみたいな風に、他人のせいにしちゃう人は来ない方がいいかなと。
八幡平にはスパルタキャンプという面白い取り組みがあるし、受け入れ体制が柔軟な地域もある。それに、シェアハウスというコミュニティに属してしまえば、八幡平市でとりあえずやっていけるようなベースはあります。移住してくる人のやる気次第ですね」
インタビューが終わった後に、車のことに話が及ぶと専門家ならではの視点で丁寧に答えてくれました。つい先日も、シェアハウスメンバーの車のメンテンナスを引き受けたという沢田さん。「何かやってあげたいという気持ちがあるんですよね」と楽しそうに笑顔で答えている姿が印象的でした。人との輪を広げながら楽しいことを追求する沢田さんの挑戦は続いています。
YourBase
出典:https://yourbase.life/
沢田さんが代表を務めるYourBaseのサイトはコチラ→https://yourbase.life/